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東京家庭裁判所 昭和40年(家)3509号 審判 1965年3月26日

申立人 藤井公子(仮名)

相手方 岡田吉男(仮名)

主文

相手方は藤井文男(昭和三三年四月二七日生)を申立人に引渡せ

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、その理由として次の(一)ないし(四)のとおり述べた。(一)、申立人は藤井正男と昭和二四年九月婚姻し昭和二五年三月一〇日長女美子、同二七年一月一九日二女啓子、同三三年四月二七日長男文男を儲けた。(二)、右藤井正男は昭和二九年頃から岡田典子と知合い家庭を顧りみないようになつたので、申立人は正男と別居するの已なきに至り、昭和三五年六月一八日札幌家庭裁判所室蘭支部に於て、次のような調停が成立した。すなわち、申立人と藤井正男は別居し、申立人が右一男二女を引取り養育監護すること、藤井正男は申立人に対し生活費として昭和三五年七月以降毎月金六千円を支払うこととする調停が成立した。(三)、申立人は昭和四〇年一月病気したので、右一男二女を一時、北海道稚内の申立人の姉に預けたところ、藤井正男は申立人に無断で同年三月三日長男文男を連れ出し前記典子の父親である相手方に預けたものである。(四)、申立人は、文男が四月から室蘭市の小学校に入学するので、急いで上京し相手方に文男の引渡方を求めたが正男から依頼されたからと称し応じないものである。

よつて案ずるに、申立人、相手方及び藤井正男の各審問の結果と家庭裁判所調査官伊藤よねの報告書によれば申立人の主張する事実をすべて認めることができる。右事実によれば、申立人と藤井正男とは、前記調停において、別居のためその子女を共同して監護することができないので、その親権のうち子の監護につき申立人においてこれをなすべく協議したものと認められる。かような協議は勿論適法であつて、別に協議し直すか、民法第七六六条に準じ家庭裁判所の処分によらない限り、正男は監護の権能を行使し得ないものと考えざるを得ない。従つて、藤井正男が相手方に文男を引渡しその監護を委託したとしても、相手方は正当に監護する権能をうるものでないので、相手方が文男を留めおくことは、申立人の文男に対する監護を妨げているものというほかない。かような場合に、申立人は、その文男に対する親権の行使を相手方が妨げているものとして相手方に対し妨害排除を求めうることは勿論であるが、相手方が事実上文男の監護をなしていることを基礎として、民法第七六六条に準じて、家庭裁判所に対し子の監護をすべき者を変更し、監護について相当な処分を求めることもできるものと考えざるを得ない。しかして、本件申立は右相当な処分を求めるものと解せられるところ、前記各審問の結果によれば、文男が申立人の許にあつてその監護を受けることが、相手方或は藤井正男の許にあつてその監護を受けるよりも、より文男の幸福に副うものと認められるし、また、文男は昭和三三年四月二七日生で未だ自己の意思で相手方に留つているものでないことが認められるので、申立人を文男の監護者とすることが相当であり、相手方に文男を申立人に引渡さしめることが相当であると考えられる。しかして、前記調停において、申立人が文男の監護者であることが明らかであるので、主文でこれを明らかにする要のないものと認め、本件申立を相当と認め主文のとおり審判する。

(家事審判官 脇屋寿夫)

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